【妄想?】「マイワシ」と「レジーム・シフト」。
マイワシが教えてくれた「地球の秘密」。
最近、京急大津でマイワシが釣れていますね。はじめて釣ったという方も多いのではないでしょうか。珍しさの面でも話題になることがあるようですが、長い目で見ると、どうやら珍しいことではないようです。
僕はまだ海釣りの世界に入って5年もたたない新米なので経験がありませんが、以前(おそらく20~30年前くらい)は東京湾でも毎年サビキに鈴なりに釣れていたという話を聞いたことがあります。しかし、特にここ10年程?はまったくと言って良いほど釣れていなかったようです。
なぜでしょう?
乱獲で減ってしまったんでしょうか?
それとも環境破壊で海が変わってしまったんでしょうか?
必ずしも、そうとは言えないようです。
そして、そのことを人類に教えてくれたのが、他でもない「マイワシ」なんです。
以前、このブログの記事で「魚種交替」という理論に触れさせて頂いたことがあります。
リンク → 【妄想?】サバが増えるとアジが減る!?簡単そうで難しいその原理は・・・。
ごく簡単にいうと、マアジとマサバ、そしてマイワシの漁獲数には中長期的な相関関係があり、どれかが増えるとどれかが減る、という現象がある、という考え方です。
(他にもカタクチイワシ、スルメイカが加わる観点もあります)
深く追っていくととても複雑で難しいので、僕も「そんなこともあるのかなぁ」程度に頭に置いています。
この「魚種交替」に出て来る魚の中で、漁獲量が1番極端に上下する魚が「マイワシ」です。獲れる時には爆発的に獲れ、取れない時にはほとんど市場に出回らないレベルにまで落ち込んでしまいます。
末尾の参考URL記載の西海区水産研究所サイトから引用させていただきました(問題があれば削除致します)。現時点で最も一覧性に優れるグラフだと思います。
青い部分がマイワシの漁獲量です。他の魚(アジ類、サバ類、カタクチイワシ)にくらべて、グラフの高さの変化が激しいことが分かるかと思います。また、マイワシの漁獲量について1988年のピーク時には年間約450万トンも取れていたのに、17年後の2005年には約3万トンにまで落ち込んでしまっていることもこのグラフに現れています。実に150分の1・・・です。
釣りにいく度に150匹は釣れていた魚が、今は何度出かけても1匹ずつしか釣れない・・・という感じ?そう考えると、いかに悲劇的な減り方か実感できる気がしますね。
なお、この魚種交替のサイクルでは、現在はこれまで主役だったマアジの減少期にあたり、これからマサバ時代に入っていくところと言われます。マイワシは漁獲量が底を打ち、徐々に増え始める時期と思われます(魚種交替は地球規模で起こるため、局地的な検証は難しいです。例えば現在、太平洋系のマアジは1994年以降減少傾向ですが、日本海系は近年、増加傾向にあります)。
※この理論は魚の乱獲を正当化することに悪用されることもあります。「魚が減ったのは漁業のせいじゃなくて環境のせいだ!」という立場です。原因が何であれ、減った魚を獲り続けたら漁業はいずれダメになってしまいます。釣りと直接関係があるわけではありませんが、頭の中に留めておきたいものですね。
Q.「魚種交替」現象はなぜ起こるの?
A.大きな要因として「レジーム・シフト」があります。
「レジーム・シフト」。
「気候ジャンプ」とも呼ばれるこの現象を大雑把に説明すると、10数年に一度くらいの頻度で発生する地球規模の急激な気候変動のことです。簡単に言うと、それまでの10年間くらいは年間平均気温の変化が1~1.5度くらい範囲に収まっていたのに、突如として1~2年の間に2~3度も下がったり、又は上がったりするような現象、という感じでしょうか。
研究によって、偶然の産物ではなく周期的に起こる地球のサイクルらしいということが分かってきました。海流の流れる道筋や温度の影響が大きいと言われていますが、まだサンプルとなるデータが少なく、詳しいメカニズムは分かっていません。最近では1970年代に1~2回、1988~1989年、1997~1998年に発生した、とする説が有力になっているようです。
このレジーム・シフトは漁業だけの問題ではなく、「気候」・「海洋」・「海洋資源」が密接に関連して地球環境を形成していることを示す概念です。言葉を換えれば「海洋資源は単なる食糧ではなく、空気や森林と同じ地球の共有財産である」という定義をもたらすものです。現在、この概念は地球環境を捉える上での主流となっており、世界中で盛んに研究されています。
そうです。
この「レジーム・シフト」の存在を人類に教えてくれたのが他でもない「マイワシ」なんです
そして、そのメッセージに気づき、新しい概念として提唱された方は日本人です。
マイワシが教えてくれた「地球のひみつ」。
東北大学の川崎健教授は、太平洋の遠く離れた3箇所においてマイワシの漁獲量の増減に同期があることに気付かれました。それらのマイワシは混合の無い別クループと考えられました。川崎教授は、この同期現象は「局地的な研究では説明できない」と考えました。
そして「この現象を説明するには、太平洋規模の海洋変動や、関連する気候変動を考慮する必要がある」という結論にいたり、1983年に発表しました。しかし、当時の国際学会では重要視されませんでした。「環境は毎年変動するが、長期間平均すれば一定であり、魚が減るのは獲り過ぎのせい」という考えが当時の主流だったからです。
その後、教授は検証を重ね、3年後に「これらすべての地域のマイワシとカタクチイワシの漁獲量に同期した逆相関関係 (一方が増えると一方が減る)がある」ことを報告しました。これが一部の学者の興味を引くことになり、ようやく世界中で検証が始まりました。
それでも検証には時間が掛かりました。教授の理論が認められ、主流となるに至ったのはようやく1996年頃のことだと言われています。
※主流になるに至った経過で注目すべきことは、水産学の分野だけではなく、地球物理学や海洋物理学の分野で川崎教授の理論に注目が集まり、次々に裏付けとなるような研究成果が上がってきたことです。この概念は地球環境の捉え方そのものを大きく変えるに至りました。
参考URL
資源変動と海洋生態系 ~マイワシを例に~ - 海洋政策研究財団
マイワシはなぜ減った?マサバはなぜ増えない? - 中央水産研究所
参考文献
「イワシはどこに消えたのか?」本田良一 著(2009年中央公論新書)
この本は釣り本ではないので、特にブックレビューは行いません。でも海洋資源のことをもっと知りたいと思われる方には、ぜひ読んでみて頂きたい一冊と思います。
こんな話は釣りにほとんど関係がない、と言えばそのとおりです。
でも、ボートの上でマイワシに出会った時、こんな話を思い出すことができたら、目の前でピチピチともがいている姿がちょっと違って見えてくるかもしれません。魚体の美しさや海の恵みの有り難さ、そして、この竿と糸を通じて地球と語り合っているんだな、という気持ち。そんな感覚が浮かんでくるかも・・・しれませんね。
※もっとも、マイワシばかりジャンジャン釣れる時代になったら、そんな感傷は無用になると思いますが・・・。
釣りが上手になる道とは違うかもしれませんが、個人的には海や魚のことをもっともっと知りたいな、と思います。