【温故知新】ブックレビューNo.5「釣師・釣場」
温故知新のブックレビュー、5冊目です
「釣師・釣場」井伏 鱒二 著(1964年新潮社)
平成5年で第6版とありますが、復刊されたもので、装丁も当初とは変わっているようです。
もともとは昭和35年に発刊されたものの改訂版で、昭和39年に発刊された本です。僕にとって中学生時代に読んだ「ジョン万次郎漂流記」以来の井伏鱒二先生の著作になります。
完全に「釣り本」といって良いと思います。
この本の執筆を目的とした取材旅行に、井伏鱒二先生は2年間ほど費やされているようです。
釣り本といっても、井伏鱒二先生本人の言葉としての釣り指南が詰め込まれている訳ではなく、各地で名のある釣り師を訪ね歩き、その名人の釣りや、聞けた話をまとめる形で構成されています。ひとことで言えば、この本における井伏鱒二先生は「釣りジャーナリスト」としての立場に徹しておられる感じですね。
各章のタイトルを引用させて頂きます。
1. 「三浦三崎の老釣師」
2. 「外房の漁師」
3. 「水郷通いの釣師」
4. 「尾道の釣・鞆ノ津の釣」
5. 「甲州のヤマメ」
6. 「阿佐ヶ谷の釣師」
7. 「最上川」
8. 「庄内竿」
9. 「長良川の鮎」
10.「奥日光の釣」
11.「笠置・吉野」
12.「淡路島」
第1、2、12章は海釣りの話、それ以外は主に川釣りの話です。全体としては川釣り、特にアユに関する比率が高い感じです。井伏鱒二先生は特にアユがお好きだったんでしょうか。
僕はヤマメやアユ釣りの経験がないので、残念ながらこの本の魅力を半分も受け止めきれていないかもしれません。イメージの湧きにくい部分をなんとか理解しようと、章ごとに繰り返し読んだため、読み切るのに2週間もかかってしまいました(朝夕の通勤時間だけで読んでいます)。
それでも、海釣りに係る章と竿に係る章はとても参考になりました。海釣りはほとんど鯛釣り(漁)の話で、あまり目新しい話が出てくる訳ではないのですが、手漕ぎボート釣りをされる方は興味深く読めると思います。竿の話は、竿作りの話だけでなく、竿のさばき方の話が少し出て来るところが貴重です。考えてみると、竿さばきを勉強できる機会って本当に少ないですよね。
個人的に、この本のあとがきに惹かれてしまいました。
井伏鱒二先生はこの本について、こんなことを書かれてます。
釣りたくても釣れないので、釣れる人から釣れる話や釣る話を聞いてくる。
そういう立場でもって書いた釣り談義である。
先方はこちらが要点を理解しないのでいろいろもどかしかったに違いない。
謙虚さが伝わる口上です。同時に、(腕前はともかく)釣りが大好きで、釣りに係わる本を書きたい、という気持ちがひしひしと伝わってくる気がします。また、「釣れる話」と「釣る話」という言葉をわざわざ使い分けていることに、インタビューに応じてくれた釣り師への尊敬と礼譲の念を感じます。
また、こんなことも書いてあります。
釣り支度で電車に乗っていると「釣れましたか」などと話かけられることがある。
そういう場合、こちらの言うのを聞くよりも相手自身の釣り談義をしたいために
話しかけるのだと思って差し支えない。
私は、そんな自漫話を聞くのが大好きである。
文豪として有名な井伏鱒二先生。この本を読むまでは、もっと泰然とした方を想像していました。こんなお人柄の方だったということは少し意外な感じです。
そして、すっかり好きになってしまいました。
いまさらですが、「山椒魚」や「黒い雨」といった先生の有名作を読んでみたくなりました。
作家の人柄の触れるというのは、とても楽しいことですね。
ようやく休漁期間の明けが見えてきました
予定では、今週末を過ぎれば実質終了になります。
釣り本を読むことと並行して行ってきたスマホ制限の試みも効果が出ていて、かなり頭痛も楽になってきました。
仕事だけは非常に忙しくて辟易してますが、這い釣りに出る気合いは十分(?)な気がします。
ちょうど来週から気温も上昇に転じる予報ですし、予想をはるかに下回っている大津の水温も、そろそろ底を打ちそうですね(黒潮が大蛇行して遠く離れているのは気がかりですが・・・)。
あと少し心はもう海に飛んで行ってしまいそうです
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